赤いロレックスとニューヨークのダイヤモンド・ディストリクトのドラマを、今週の時計関連映画に選んだ。
気分がよくなる映画を求めているなら、他を当たった方がいい。サフディ兄弟がメガホンを取った 『アンカット・ダイヤモンド(原題Uncut Gems) 』 (2019年)は、怪しいキャラクターの一味と、エチオピアから調達した文字通りアンカットの宝石から名付けられている。これは、ニューヨークのダイヤモンド・ディストリクトで宝石店を経営するハワード・ラトナー(アダム・サンドラー)が手に入れたものだ。早口のハスラー(ギャング)であり、どうしようもないスポーツギャンブラーでもある。ラトナーは高価な時計も所有する。唯一の問題は、どれも腕に着けておくことができないということだ。
注目する理由
NBAのプレイオフシーズンだ。 『アンカット・ダイヤモンド』は、古典的なバスケットボール映画ではないが、その全プロットは2012年のプレーオフと、ラトナーとケビン・ガーネット(本人役)との偶然の出会いを中心に展開していく。映画は、ラトナーがNBAのスーパースターと知り合ったことをきっかけに、彼の人生最大のギャンブルへと進んでいく。
この映画のプロップマスターであるキャサリン・ミラー氏に、ニューヨークの時計事情に深くかかわったこの映画で、時計を調達することについて聞いた。ミラー氏によると、時計は脚本に明記されており、サフディ兄弟にとって重要な要素だったという。当初ラトナーは2本の時計を身に着ける予定だったが、監督たちは、映画の中で2本の時計を盗まれた方が面白い(この映画は決してコメディではない)と考え、結局3本の時計を着けることになった。
まず最初に、オーデマ ピゲのロイヤル オーク クロノグラフが登場するが、最初の7分間で高利貸しの2人組に奪われてしまう。その時計は、Ref.25860STと思われるが、これには興味深い裏話がある。ミラー氏は当初、新作のROクロノを支給されていたが、時代考証をして2012年に合ったものをリクエストしたという。
ストーリーにはレプリカの時計も含まれる。ラトナーの仲間のひとりであるデマーニー(ラキース・スタンフィールド)は、宝石店の金庫の本物ではない時計を売る仕事をしている。ハリウッドはレプリカを使うことで有名で、私のような時計愛好家を苛立たせる。しかし、ミラー氏がこの映画でレプリカ時計を使用したのは、ストーリー上、レプリカ時計が必要とされる場面だけだった。
2本めの時計は、赤いダイヤルのロレックス デイデイトで、ダイヤモンドのベゼルにダイヤモンドを敷き詰めたブレスレットという、まさに絵にかいたような特注モデルだ。サンドラーは映画のポスターでこれを着用している。この時計はダイヤモンド・ディストリクトにある宝石店のオーナーが、映画製作のために貸してくれたものだ。実はこの寛大なオーナーは、サンドラーの役作りのために、ダイヤが散りばめられたロレックスを15本ほど貸してくれたのだという。
「小さなリュックサックを背負って、小さな宝石店に行ったんです」とミラー氏は語る。「リュックに時計を入れて、ニューヨークの街を歩きました。25万ドル(約2700万円)分くらいの時計が入っていたと思います」
ミラー氏、サフディ監督、そして俳優サンドラーは、全員で宝物のような時計を囲んで、満場一致でレッドダイヤルのモデルを選んだ。
見るべきシーン
ダイヤモンド・ディストリクトにあるオフィスで腕からAPを剝ぎ取られたラトナーは、借金を払わなかったために別の時計も奪われる。お次は「デイデイト」だ。ラトナーは、娘の学校の演劇に行く際につけられ、グラウンドを追い回された挙句、SUVの後部座席に放り込まれる。首を絞められ、殴られ、時計だけでなくあらゆるものを剥ぎ取られて、自分の車のトランクに閉じ込められるのだ。一連のカオス [00:45:38]の中で、よく見るとロレックスの赤い文字盤がニューヨーク郊外の街灯を映しているのが分かる。
ラトナーの最後の時計は、ベゼルに金色のナンバリングが施され、クロノマットの特徴的なリューズを備えた大型のブライトリングだ。ボストン・セルティックスが、ケビン・ガーネットの力強いプレーと実に緊迫した2分間によってフィラデルフィア・セブンティシクサーズを破ったときに、この時計は短いながらも重要な場面でスクリーンに登場する。ラトナーが自分の店のドアを開けると [02:05:50]、カメラは彼の手首とブライトリングに焦点を当てる。次に何が起こるかは、映画を見てのお楽しみだ。